輸液投与速度に関するヒヤリ・ハット事例の背景要因分析
1)目的、対象と方法
輸液投与の速度が速すぎたとのヒヤリ・ハット事例の背景要因を分析し、医療過誤防止のための方策について検討することを目的としました。2010 年 4 月 ~ 2015 年 3 月を発生年月として報告されたヒヤリ・ハット事例のうち、輸液の「投与速度が速すぎた」事例 800件を対象としました。
事例背景要因の概要に自由記載された内容から、テキストマイニング分析を用いて背景要因に関するキーワードを抽出し、類似するキーワードを集約してカテゴリを作成しました。また、コレスポンデンス分析により、近接するカテゴリを布置図で示しました。更に、カテゴリと勤務区分との関係についても検討を行いました。
2)背景要因に関するカテゴリ(図1)
- キーワードは73抽出され、集約後のカテゴリは27作成されました。
- 最も多く出現したカテゴリは「確認不足」で、その出現頻度は46.5%でした。
- 確認不足 を除く頻出度分析では、「体位(19.8%)」、「調節(18.4%)」
「変動(13.0%)」、「交換(12.8%)」、「指示(12.8%)」、「手・腕(11.1%)」が
上位を占めました。

図1. 背景要因に関するカテゴリを出現頻度
3)カテゴリ同士の関係性(図2)
- 確認不足」を除外してコレスポンデンス分析を行った結果、対称的正規化した布置図では、
1) 調節、観察、クレンメ、不十分、固定
2) 体位、手・腕、ムラ、屈曲
3) 交換、変更、忘れる
4) 指示、投与、輸液ポンプ
5) 変動、説明不足、場所移動
の5つが近接したカテゴリとして示され、多忙 や 思い込み は独立した要因として
示されました。 - カテゴリと勤務区分との関係では、夜勤帯( 16時~7時59分)では「体位、手・腕、ムラ、屈曲」が日勤帯( 8時~15時59分)よりも顕著な背景要因となっていたことが示されました。

図2. 対称的正規化した布置図(確認不足を除く)
4)考察
ヒヤリ・ハット事例発生の要因の一つは、「確認不足」であることが報告されており、本研究でも同様の結果が得られました。そして、ヒヤリ・ハットの背景要因には、1) 看護師の手技によるものと、2) 点滴挿入部や患者の体位によるものがあることが示されました。
これらの要因によるヒヤリ・ハットを少なくするためのカテゴリ別の方策を、表1にまとめました。
今回の分析により、輸液の投与速度が速くなる背景要因が明確になり、見いだされたカテゴリ別に具体的な方策を示すことは、医療過誤防止のために有用であると考えられました。
表1. 医療過誤防止のための背景要因カテゴリ別方策
背景要因 | カテゴリ | 医療過誤防止のためのカテゴリ別方策 |
---|---|---|
看護師の手技 | 調節、観察、クレンメ、固定、不十分 |
|
交換、変更、忘れる |
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投与、指示、輸液ポンプ |
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点滴挿入部と患者の体位 | 体位、手・腕、ムラ、屈曲 |
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変動、説明不足、場所移動 |
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